今に始まったことではありませんが、求人を出すだけで従業員を雇用する難易度は、昨今ますます上がってきています。

人件費の上昇によって派遣を依頼するにもコストがかかり、これまでより採用対象を広げ、外国人材や障がい者雇用なども選択肢として検討する企業があります。

しかし、ようやく採用できたとしても、それで人手不足の問題がすべて解決するわけではありません。

仕事を覚えてもらうためには、当然ながら誰かが教える必要があります。

新人に仕事を教えている間は既存スタッフの手が止まりますし、教育担当者が通常業務と指導を同時に抱えれば、その人の負担は一時的にむしろ増えます。

ミスを指摘しなければ品質が下がりますし、一方で指導の仕方を誤れば、相手を必要以上に萎縮させたり、場合によってはハラスメントとして受け取られるリスクも生まれます。

中小企業やスモールビジネスの現場で本当に厄介なのは、こうした小さな負荷が毎日少しずつ積み重なっていく状態ではないでしょうか。

例えば、手戻り、確認、修正、残業といった、ひとつひとつの要素だけを見ると、それほど大きな仕事ではないのかもしれません。

しかし、それが毎日積み重なることで、経営者や現場リーダーの体力だけでなく、考える力や判断する余裕まで少しずつ削られていきます。

なんとか仕事は回っているものの、ずっとしんどい。

そんな低空飛行の状態です。

こうした状況を少しでも改善するために、ChatGPTをはじめとした生成AIの導入を検討した、あるいはすでに使ってみたという方も多いことでしょう。

ところが、いざ使ってみると、

「ネットで調べれば出てくるような話しか返ってこない」

「自社の事情を全然わかってくれない」

「プロンプトを考えて修正するくらいなら、自分でやったほうが早い」

そう感じて、使うことをやめてしまった人もいると思います。

ただ、ここでひとつ考えてみてほしいことがあります。

AIの性能以前に、AIに「いきなり正解を出してもらうこと」を求めすぎていないでしょうか。

生成AIを実務で使うときに重要なのは、完璧な正解を一発で出してもらうことではありません。

むしろAIとのやり取りを通じて、

「自分たちは普段、何を基準にこの仕事をしているのか」

をきちんと言葉にし、AIが参照できる状態にすると同時に、それを社内でも共有できる形にしていくことです。


AIのズレた回答には、自社の「判断基準」が隠れている

SNSや動画を見ていると、「このプロンプトを使えば業務を自動化できる」「AIに一言指示するだけで資料が完成する」といった情報を見かけます。

実際、文章の要約やメールのたたき台など、比較的単純な仕事であれば、一度の指示でも十分使えることがあります。

最近の生成AIはかなり精度が上がっていますので、多少曖昧な指示でも前後の文脈を読み取り、それなりの回答を返してくれます。

ただし、AIが前後の文脈からこちらの求めるものに近い回答を返せることと、自社固有の事情や判断基準まで共有できていることは別です。

実際の業務には、それまで会社や担当者が積み上げてきた経験や判断が含まれており、それらを伝えない限り、自社の実情に合った回答にはなかなか近づきません。

たとえば、取引先から納期について問い合わせがあったとします。

単純に在庫と製造日数だけを確認すればよい会社もあるでしょう。

一方で、

「この取引先は過去に納期トラブルがあったので余裕を持たせる」

「この加工方法は不良率が高いので通常より日数を見る」

「この時期は物流が混むため、普段より一日早く出荷する」

といった、基本的なルールとは異なる独自の判断を普段から行っている会社もあります。

長く働いている社員にとっては当たり前でも、新しく入った人から見れば知りようのない情報です。

生成AIを使用する際にも、同じことが言えます。

最初に数行の指示を与えただけでは、自社の顧客特性も、過去の失敗も、業界特有の事情も知りません。

社内で「これは絶対にやらない」と決めていることも、当然ながら知りません。

そう考えると、最初の指示だけでベテラン社員と同じ判断を求めるのは、少し無理があります。

そこで私は、AIが最初に出した回答を完成品として扱うのではなく、こちらの考えを整理するための下書きとして見るほうが、実務では使いやすいと考えています。

AIが出した回答を見て、

「なんか違うな」

と感じたとします。

そこで回答を使えないものとして捨ててしまうのではなく、一度立ち止まって、

「何が違うのか」

と、その違和感の正体について少し考えてみます。

「この言い方だと、うちのお客さんには強すぎる」

「この手順を追加すると、後工程の人が困る」

「うちは価格の安さより、納期を守ることを優先している」

こうして違和感をひとつずつ言葉にしていくと、普段はほとんど意識していなかった、自分たちの仕事の中に隠れている判断基準が少しずつ浮かび上がってきます。

「なぜ自分はこの回答を使えないと思ったのか」という理由をその都度言葉にして残していけば、次にAIへ指示を出すときには、より具体的な判断材料を渡せるようになります。

そう考えれば、導入初期のズレた回答も、あとで価値に変えられるダイヤモンドの原石のようなものです。


曖昧な指示では、なぜダメだったのかまでは伝わらない

AIから期待した回答が返ってこなかったとき、

「なんか違うから、もう少しプロっぽく書いてください」

「もう少し親しみやすくしてください」

「別の案を出してください」

と修正を依頼することがあります。

もちろん、これでも文章は変わります。

最近は生成AIの精度も上がっていますので、雑な指示を送っても前後関係を判断し、「たぶんこういう意味だろう」と推測して、それっぽい回答を返してくれることも珍しくありません。

ただ、良い回答が返ってきたことと、「前の回答の何が問題だったのか」という判断基準までAIに伝わったことは別です。

たまたま出力結果が良く、こちらの意図が伝わったように見えても、次回同じような条件で同じ判断をしてくれるとは限りません。

そのため、実務で繰り返し使うのであれば、

「もっと良くしてください」

だけではなく、

「なぜ前の回答を採用しなかったのか」

まで伝えておいたほうが再現性は高くなります。

これは、人に仕事を教える場合でも同じです。

部下が作った資料を見て、

「違うから、もう一回やって」

と曖昧な指示だけ伝えても、本人には数字の選び方が悪かったのか、説明する順番が悪かったのか、情報量が多すぎたのか、そもそも資料の目的を勘違いしていたのか、何を直せばよいのか判断できない状態かもしれません。

具体的で明確な説明をしなければ、次回も似たような失敗が起こります。

生成AIにも、「正解」を示すだけではなく、「なぜその案を採用しなかったのか」まで伝えることが大切です。

「この案を採用しないのは、現場の初期負荷が高すぎるからです」

「以前、似た方法を導入して定着しなかった経験があります」

「うちは価格よりも納期の確実性を重視しています」

「この文章は内容としては間違っていませんが、長年取引している顧客に送るには少し冷たく感じます」

こうして修正理由まで説明していくと、単なる文章の好みではなく、

「自社では何を優先しているのか」

「どんな状態を避けたいのか」

「何をもって良い仕事と判断しているのか」

といった、それまで曖昧だった基準が少しずつ言葉になっていきます。

ここで注意しておきたいのは、「AIに教える」といっても、会話を繰り返せばAIそのものが勝手に自社専用へ成長していくわけではないということです。

実際には、やり取りの中で見つかった判断基準を、指示書やマニュアル、過去事例、社内ルール、ナレッジベースなどに整理し、AIが必要なときに参照できる状態を作っていきます。

つまり、AIが勝手に会社を理解してくれるのを待つのではなく、人間側がこれまで曖昧だった判断基準を整理していく必要があります。


AIに仕事を教えようとすると、ベテランの勘が言葉になる

この作業を続けていると、AIを使えるようになることとは別の変化も起きてきます。

それまで感覚的に行われていた仕事が、少しずつ言葉として整理され始めます。

たとえば、ベテラン社員が、

「この注文なら、この方法は選ばない」

「このお客さんには先に電話したほうがいい」

「この条件なら、いつもの手順では危ない」

と判断していたとします。

本人からすれば、長年の経験から自然に判断していることなので、いちいち理由を説明する機会はありません。

ところが、AIに同じような判断をしてもらおうとすると、

「なぜ、この方法を選ばないのか」

「どんな条件なら別の対応をするのか」

「そのまま進めると何が起きるのか」

まで説明する必要があります。

このように、本人は理解しているものの、言葉やマニュアルとして十分に整理されていない知識や経験は、一般に「暗黙知」と呼ばれます。

熟練者の勘やコツも、そのひとつです。

暗黙知そのものが悪いわけではありません。

現場には、文章やマニュアルだけでは説明しきれない判断もあります。

問題になるのは、その判断が特定の人の頭の中にしか存在しない状態です。

例えば、その人が休むと仕事が止まる、退職するとそれまで蓄積してきた経験まで会社から失われる、新人へ引き継ごうとしても「やっていたらそのうち分かる」としか説明できない、といった具合に、属人化が組織にとって大きなリスクになります。

生成AIを実務で使うために判断基準を整理する作業は、この属人化を見直すきっかけにもなります。

AIに使うために整理したルールが、そのまま新人教育に利用できることもありますし、引き継ぎ資料として使えることもあります。

さらに整理する過程で、

「そもそも、このルールはなぜ存在しているんだろう」

「昔は必要だったけれど、今も続ける必要があるのか」

と気づく場合もあります。

つまり、AI導入の価値は、AIが仕事を代わりにやってくれることだけではありません。

AIに仕事を説明しようとした結果、自分たち自身も曖昧だった仕事の進め方が見えてくることがあります。

ここまで来ると、単なるAI導入というより、業務そのものの棚卸しに近くなってきます。


何度もやり直す仕事まで、人間にやってもらう必要はない

人に仕事を教えるときには、仕事の内容だけでなく、相手の状態も考える必要があります。

同じミスを何度も指摘すれば、教える側も疲れます。

教わる側も、「また間違えた」と自信をなくすことがあります。

指導する側が感情的になれば、職場の人間関係にも影響します。

だから人材育成では、何を教えるかだけでなく、どのタイミングで、どのように伝えるかまで考える必要があります。

一方で、生成AIにはそうした対人関係上の配慮は必要ありません。

文章を10回書き直してもらっても構いませんし、

「この部分は前の案のほうが良かったので戻してください」

「今度はこの条件を追加して考えてください」

と何度やり直してもらっても、それによって人間関係が悪くなることはありません。

ここは、人とAIの役割を分けやすい部分だと考えています。

文章の下書き、情報の整理、複数案の比較、会議内容の要約、過去資料から必要な情報を探すといった、何度も試したり、やり直したりする必要がある作業には、AIに付き合ってもらう。

その一方で、人間は顧客と話したり、部下へ直接フィードバックしたり、現場を観察したり、新しいサービスを考えたりすることに時間を使う。

あるいは、これまで毎日残業していたのであれば、早く帰ることに使ってもいいと思います。

業務効率化という言葉を使うと、どうしても、

「同じ8時間で、もっと多くの仕事をする」

という方向に話が進みがちです。

しかし、仕事を効率化した結果、それまで8時間かかっていた仕事が7時間で終わるようになったのであれば、残りの1時間まで必ず新しい仕事で埋める必要はないと考えています。

仕事を少しラクにして、人がきちんと考えたり、休んだりできる状態を作ることも、私は業務改善の目的のひとつだと考えています。


【仮想事例】毎晩メールを書き直す社長。ボトルネックは「文章」ではなかった

具体的な場面を想像しやすいように、ひとつ仮想の事例を考えてみました。

B社は、地域密着型で特注加工と卸売を行っている社員10数名の会社です。

顧客から特注品の問い合わせが入ると、若手社員が仕様を確認し、見積もりと納期についてメールを作成しています。

ところが、そのメールをそのまま顧客へ送ることはできません。

社長が毎晩内容を確認し、かなりの部分を書き直しているからです。

若手社員が文章を書けないわけではありません。

問題は、

「この加工方法は不良率が高いので、納期に余裕を持たせる」

「この顧客は以前納期トラブルがあったので、通常より丁寧に説明する」

「この数量なら、通常と同じ利益率で見積もると危ない」

といった判断基準が、ほぼ社長の頭の中にしか存在していないことです。

そのためスタッフに任せたいと思っていても、最後は社長自身が確認しなければ仕事が完了しない状態になっています。

この場合、表面的には「メール作成に時間がかかっている」ように見えます。

しかし、実際にボトルネックになっているのはメールを書く作業そのものではなく、社長にしか判断できない状態になっていることです。

そこで生成AIを導入して、

「この仕様で見積もり回答メールを作成してください」

と依頼してみます。

文章そのものは、それなりにきれいなものが返ってくるでしょう。

しかし、実際にはそのまま使えません。

B社独自の納期感覚も、過去のトラブルも、どこまで利益を確保する必要があるのかも、AIは知らないからです。

ここで、

「やっぱりAIはうちの仕事には使えない」

と判断してしまうこともできます。

ただ、B社では業務全体をAIへ任せるのではなく、「見積もり回答メールの下書きを作る」というひとつの仕事だけに対象を絞ることにしましょう。

そして、社長がAIの文章を修正するたびに、修正内容だけではなく、その理由も一緒に残していきます。

「この加工方法では不良が出やすいので、通常より納期を長めに案内する」

「この取引先は価格より納期を重視しているので、値段の安さを強調しない」

「以前、完成後に仕様の認識違いがあったため、この条件では必ず確認事項を文章に入れる」

こうした理由が増えていくと、それまで社長自身もあまり意識していなかった判断基準が見えてきます。

それを整理し、AIが参照できるルールとして残します。

すると、次に似た案件が来たときには、以前よりもB社の考え方に近い下書きを作れるようになります。

もちろん、最終確認までAIへ任せる必要はありません。

社長が最後に確認する工程そのものは残しても構いません。

重要なのは、社長の仕事が、

「毎回ゼロから文章を書き直す」

状態から、

「ある程度整った下書きを確認し、必要なところだけ直す」

状態へ変わることです。

さらに、これまで社長の頭の中にしかなかった判断基準をスタッフも確認できるようになります。

もし将来AIを使わなくなったとしても、このとき整理した判断基準そのものは会社に残ります。

ここまで含めて考えると、AI導入による成果は、単なるメール作成時間の短縮だけではありません。

社長しか持っていなかった判断基準を整理し、組織の中で共有できる状態にしたことも、大きな成果です。


AIで仕事を減らしたはずなのに、なぜ確認作業が増えるのか

ここまでAIを活用するメリットについて書いてきましたが、導入すれば必ず仕事が減るわけではありません。

使い方によっては、逆に仕事を増やしてしまう可能性もあります。

わかりやすい例が、AIによって資料や文章を大量に作れるようになった結果、それを確認する仕事まで増えてしまうケースです。

これまで1日に3本しか作れなかった資料が、AIを使えば10本作れるようになったとします。

数字だけを見ると、生産性は大きく上がっています。

しかし、その10本すべてを人間が確認しなければならず、内容に間違いがないか調べ、必要に応じて修正するのであれば、別の場所で新しい仕事が増えています。

生成AIは、事実とは異なる内容を、あたかも事実であるかのように回答することがあります。

文章そのものは自然なので、一見しただけでは間違いに気づきにくいこともあります。

そのため業務でAIを利用する場合は、

「何を作らせるのか」

だけではなく、

「誰が、どの部分を、どこまで確認するのか」

まで一緒に決める必要があります。

また、会社として何もルールを決めないまま、

「便利だから各自でAIを使ってください」

としてしまうことにも注意が必要です。

OECDが2024年に日本を含む7か国の中小企業を対象に実施した調査では、生成AIを業務で利用している企業の割合は全体で約31%、日本では23.5%でした。調査対象国の中では、日本が最も低い水準です。

一方で、生成AIを利用している中小企業のうち、従業員がAI関連の研修を受けていると回答した割合は全体で23.6%、日本では11.3%にとどまっています。

少なくともこの調査を見る限り、日本でも中小企業で生成AIの利用は始まっている一方で、その使い方やリスクについて従業員へ教育するところまでは、まだ十分に広がっているとは言いにくい状況です。

AIを導入するのであれば、

何を入力してよいのか。

最終確認は誰が行うのか。

どの仕事にはAIを使わないのか。

作ったルールや指示書をどこに残すのか。

こうした運用まで考えておく必要があります。

AIツールを契約して社員へ配れば、それで導入が完了するわけではありません。

実際の仕事の流れまで見直して初めて、業務改善として意味が出てきます。


「AIで人を減らす」が、業務改善を止めることもある

もうひとつ、生成AIを導入するときに考えておきたいことがあります。

AIによって仕事が減ったあと、その空いた時間を会社がどう扱うのかという問題です。

生成AIによる効率化の話をすると、

「何人分の仕事を減らせるのか」

「何人削減できるのか」

という話につながることがあります。

もちろん、経営を続けるためにコストを見直さなければならない場合もありますので、人件費削減そのものを否定するつもりはありません。

ただし、AIによる業務改善と人員削減を短絡的に結びつけることには、長期的なリスクもあると考えています。

以前、私はこの問題について、

「地方都市で17年勤めたIT社員が『自作の生成AI』に仕事を奪われた日」

という記事を書きました。

徳島で17年間IT関連の仕事に携わってきた知人が、自分の知識や経験を生成AIのワークフローへ落とし込み、自身の業務をかなりの範囲まで自動化した結果、その仕組みが「以前と同じ人件費を払い続ける必要があるのか」という会社側の判断につながった事例です。

【関連記事】
https://kozaitakanori.com/research/OD-00002

この事例を考えたとき、問題になるのは本人ひとりの雇用だけではありません。

その出来事を周囲の従業員が見ています。

もし、

「仕事を効率化すると、自分の仕事がなくなる」

「自分のノウハウを共有すると、自分の価値が下がる」

「AIに自分の仕事を教えると、自分が不要になる」

と周囲が感じるようになれば、従業員にとって業務改善へ積極的に協力するメリットがなくなります。

むしろ、自分にしかわからない仕事を残しておいたほうが安全だと考える人が出てきても不思議ではありません。

会社側は属人化を解消したい。

しかし従業員側から見れば、属人化していたほうが自分の仕事を守れる。

そんな状態になれば、いくら会社が、

「業務改善を進めましょう」

「ノウハウを共有しましょう」

と呼びかけても、なかなか進まないでしょう。

短期的には人件費を削減できたとしても、その結果として改善提案や知識共有が減ってしまえば、長期的には別の問題を抱えることになります。

以前の記事では、この問題を心理的安全性、心理的契約、組織学習、リスキリングなどの観点からもう少し詳しく整理しました。

今回の記事で伝えたいのは、

AIで仕事を減らしたあと、その人に何をしてもらうのかまで考えておく必要がある

ということです。

ILOが2025年に公表した分析では、世界の労働者のおよそ4人に1人が、何らかの形で生成AIの影響を受ける可能性のある職種に就いているとされています。

一方で、仕事そのものがなくなるというより、人間が担う仕事の内容が変化していく可能性のほうが大きいとも指摘されています。

これは世界全体を対象とした分析なので、そのまま日本の中小企業へ当てはめられる数字ではありません。

ただ、AIによって仕事の一部が置き換わっていくのであれば、企業側にも、

「AIで何をなくすのか」

だけではなく、

「そこで空いた人や時間を、次にどこへ向けるのか」

という設計が必要になります。


AIで2時間浮いたからといって、2時間分の仕事を足さなくていい

AIによって毎日2時間かかっていた作業が30分で終わるようになったとします。

1時間30分の余裕が生まれます。

その時間を使って、これまで手が回らなかった顧客対応をしてもいいでしょう。

新人教育に使ってもいいです。

現場の課題を整理したり、新しいサービスを考えたりする時間にしてもいいと思います。

これまで毎日残業していたのであれば、定時で帰るために使っても構いません。

ところが業務改善をすると、ときどき、

「2時間短縮できたので、あと2時間分新しい仕事ができますね」

という話になります。

これでは、生産性は上がっても働く人の負担は変わりません。

むしろAIによって仕事の処理速度が上がったことで、以前より多くの仕事を抱える可能性すらあります。

私は、生成AIの導入で目指したいのはそこではありません。

転記する。

文章のたたき台を作る。

同じ情報を何度も整理する。

過去資料から必要な情報を探す。

定型的な問い合わせに回答する。

そうした、人間が毎回ゼロから行わなくてもよい仕事をAIに手伝ってもらう。

そして、そこで空いた時間を、

人と話す。

考える。

人を育てる。

新しいことを試す。

あるいは休む。

そうしたことに使える状態を作る。

AIを使って生産性を上げることと、人がラクになることは、必ずしも同じではありません。

仕事をラクにすることまで目的に含めるのであれば、効率化によって生まれた余白をどう使うのかまで考える必要があります。


会社全体をAI化する前に、まず「毎回誰かが直している仕事」を探す

生成AIを導入すると聞くと、

「どの業務を自動化しようか」

「社内全体でどう使おうか」

と、大きな話から考えたくなるかもしれません。

しかし、最初から会社全体を変える必要はありません。

むしろ最初は小さく始めたほうが、自社にとって何が有効で、何がうまくいかないのかを確認しやすくなります。

毎日繰り返している仕事。

必ず誰かが手直ししている仕事。

特定の人しか判断できない仕事。

時間はかかるけれど、人間が毎回ゼロから作る必要はなさそうな仕事。

こうしたものの中から、ひとつだけ選んで試すところからで十分です。

そこでAIへ仕事を依頼してみます。

思ったような回答が出なかったときに、

「AIは使えない」

で終わらせるのではなく、

「自分は、なぜこの回答を使えないと思ったのか」

を考えてみてください。

その理由をAIへ伝えます。

そして、あとで使えるように社内ルールとして残します。

また似た仕事が出てきたら、そのルールを使って試します。

さらに違和感が出たら、また理由を追加します。

派手さはありません。

SNSや動画で見る「このプロンプト一発で業務が変わる」という話と比べれば、かなり地味だと思います。

ただ、実際の仕事へAIを組み込むのであれば、私はこのくらい地道な進め方のほうが失敗しにくいと考えています。

生成AIを使って仕事をラクにするために必要なのは、完璧なプロンプトを探し続けることではありません。

自分たちの仕事を振り返り、

「なぜ、自分たちはこの判断をしているのか」

を少しずつ言葉にしていくことです。

その過程で、自社の顧客に対する考え方や、仕事の優先順位、これまで無意識に守ってきたルールが見えてきます。

それをAIだけに使うのではなく、人にも共有できる形で残す。

そうすれば、AIが使いやすくなるだけでなく、特定の人の頭の中にしかなかった判断基準も、少しずつ会社の中に残せるようになります。

そして、AIに任せられる仕事が増えていけば、人が本来やる必要のある仕事や、考える時間、休む時間を取り戻すこともできます。

私は、生成AIの活用はそのためにあるべきだと考えています。


AIを入れる前に、その仕事は本当に必要なのか

「生成AIを導入したいけれど、何から手をつければいいのかわからない」

「ChatGPTを使ってみたものの、実際の仕事ではうまく使えていない」

「経営者やベテラン社員の頭の中にしかない判断基準を整理したい」

「人を減らすためではなく、現場の負担を減らすためにAIを使いたい」

こうした相談を受けたとき、私は最初からAIツールの話をすることはあまりありません。

まず確認するのは、

「今、どの仕事が負担になっているのか」

ということです。

仕事の進め方そのものに問題がある場合は、AIを導入する前に業務を整理したほうがよいケースもあります。

不要な仕事をそのままAIへ任せても、不要な仕事が速く処理されるだけです。

確認作業が三重になっているのであれば、その三重チェックをAIにやらせる前に、そもそも三回確認する必要があるのかを考えたほうがいいでしょう。

毎週誰も読んでいない報告書を作っているのであれば、その報告書をAIで高速に作る前に、本当に作る必要があるのかを考えたほうがいい。

AIは便利な道具ですが、業務そのものの必要性までは勝手に判断してくれません。

だからこそ、私はAI導入の前に、一度その仕事自体を疑ってみる必要があると考えています。

ボトルネック研究所では、現在の業務を整理したうえで、

どの仕事をAIに任せるのか。

どの判断を人間に残すのか。

判断基準をどのように整理し、社内に残すのか。

そこで生まれた時間を、次に何へ使うのか。

そうしたところまで含めて、AI活用と業務改善を考えています。

問題を解く前に、問題を疑う。

AIを導入すること自体を目的にせず、仕事を少しラクにし、人が本来時間を使うべきところへ余白を戻していく。

そのための業務設計を一緒に考えています。