「業務改善の本を何冊も読み、有名なフレームワークも勉強した。それなのに、いざ自社の現場に当てはめようとすると、なぜかうまくいかない」

組織のマネジメントや業務改善に関わっていると、こうした悩みを耳にすることがあります。

TOC、5S、アジャイル、トヨタ生産方式。

世の中には、すでに優れた業務改善の理論や手法が数多く存在しています。

それでも現場の問題がなくならないのは、それらの手法が間違っているからではありません。

問題は、「どの道具を使うか」を考える前に、「そもそも今、何が起きているのか」を十分に捉えられていないことにあります。

どれほど優れた道具でも、使う場所を間違えれば効果は出ません。

私が業務改善でまず重視しているのは、個別の問題をすぐに解決しようとすることではなく、業務や組織全体をひとつのシステムとして眺めることです。

今回は、以前私が就労継続支援A型の現場で行った改善を題材に、「システム思考」で問題の構造を捉え、「TOC(制約理論)」の考え方を使って業務の流れを再設計した事例をご紹介します。

結果として、月25万円ほどだった作業報酬は100万円規模まで増加しました。

ただし、この記事で本当にお伝えしたいのは「この方法を使えば売上が4倍になる」という話ではありません。

成果を生んだのは特定のフレームワークそのものではなく、「どこに問題があるのか」を捉え直したことでした。


「公平に仕事を割り振る」という善意が、現場を止めていた

私が担当していたのは、リサイクル商品の仕入れ、仕分け、洗浄、撮影、ECサイトへの出品、梱包、発送などを行う就労継続支援A型の現場でした。

着任した当初、事業所が受け取る作業報酬は月25万円ほど。

現場では、「できるだけ全員に同じ仕事を経験してもらうことが公平であり、望ましい支援である」という考え方をもとに業務が組まれていました。

午前中は全員で商品の仕分けをする。その作業が終われば全員で洗浄に移る。午後になると撮影や出品を交代で行う。

一見すると、とても合理的に見えます。

誰かだけが同じ仕事を続けるわけでもなく、全員がさまざまな仕事を経験できるからです。

ところが実際の現場を観察すると、この「全員で同じ工程を進める」という仕組みそのものが、大きな停滞を生んでいました。

人には、それぞれ得意な作業と苦手な作業があります。

障害特性だけでなく、集中できる時間、手先の器用さ、パソコン操作への慣れ、作業速度、疲れやすさなども異なります。

その状態で全員が同じタイミングで作業を切り替えると、そのたびに集中を作り直さなければなりません。

心理学や認知科学では、こうした作業の切り替えによって生じる負担を「タスクスイッチング・コスト」と呼びます。簡単に言えば、仕事を頻繁に切り替えることで発生する「頭の切り替えロス」です。

さらに問題だったのが、工程ごとの処理速度の違いでした。

ある工程に時間がかかれば、そこで商品が滞留します。すると、その後の工程には仕事が流れてきません。

逆に前工程では、完成していない商品が積み上がっていきます。

こうして一部の工程で詰まりが発生すると、全員が忙しく働いているにもかかわらず、業務全体としてはなかなか前に進まない状態になります。

表面的に見れば、「作業が遅い」「集中力が続かない」といった個人の問題に見えるかもしれません。

しかし、私が現場を観察して感じたのは、少し違いました。

問題は個人の能力ではなく、全員を同じ方法で動かそうとしている「仕組み」の側にあるのではないか。

つまり、「公平であるためには、全員に同じ仕事を割り振るべきだ」という善意の前提そのものが、業務の詰まりを生んでいたのです。


システム思考で「誰が悪いか」ではなく「何が起きているか」を見る

ここで役に立ったのが、「システム思考」という考え方です。

システム思考とは、問題を個人や単独の出来事だけで捉えるのではなく、「複数の要素がどのようにつながり、互いに影響し合っているのか」を考える方法です。

例えば、売上が伸びない会社があったとします。

営業担当者の成績だけを見れば、「営業力が足りない」という結論になるかもしれません。

しかし実際には、問い合わせへの返信が遅いのかもしれない。見積書を作るのに時間がかかっているのかもしれない。受注しても対応できる人数が足りないため、営業側が無意識に案件を増やさないよう調整している可能性もあります。

ひとつの現象だけを切り取って原因を決めるのではなく、その前後で何が起きているのかを見る。

これがシステム思考の基本的な考え方です。

今回の現場でも、私は「誰の作業が遅いのか」ではなく、「どこで仕事の流れが止まっているのか」を見ることにしました。

すると、「全員一律の作業割り振り」が頻繁な作業切り替えを生み、メンバーごとの得意不得意と工程ごとの処理能力の差によって商品が滞留し、その結果、業務全体の処理量が制限されていることが見えてきました。

地図が見えて、初めて使うべき道具も見えてきます。

そこで次に参考にしたのが、TOCでした。


TOCで「一番詰まっている場所」から改善する

TOCとは「Theory of Constraints」の略で、日本語では一般に「制約理論」と訳されます。

イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラットが提唱したマネジメント理論で、非常に大ざっぱに説明すると、「システム全体の成果は、最も能力が限られている部分によって制約される」という考え方です。

道路を想像すると分かりやすいかもしれません。

片側3車線の道路が途中だけ1車線になっていれば、前後にどれだけ広い道路があっても、そこで渋滞します。

業務でも同じことが起きます。

すべての工程を同じように改善するのではなく、まず「最も流れを止めている場所」を見つけ、そこから手を入れる。

これがTOCの重要な考え方のひとつです。

そこで私は、それまでの「全員が同じ工程を順番に行う」という運用をやめ、メンバーの得意分野を軸に主担当となる工程を設定しました。

細かな作業を集中して続けられる人には検品や洗浄を中心に担当してもらう。

デジタルツールの操作や反復作業が得意な人には、撮影やEC出品を中心に担当してもらう。

そして、それぞれの工程を独立した仕事として見るのではなく、商品が仕入れから出品、発送まで途切れず流れるように、前後の工程の処理量を調整しました。

重要なのは、単純に「分業した」ということではありません。

仕事全体をひとつの流れとして捉え、「どこか一か所だけが大量に仕事を抱え込まない状態」を設計したことです。

また、主担当を決めることは、「その仕事しか経験させない」という意味でもありません。

日常的な業務は強みを発揮しやすい場所に軸足を置きながら、必要に応じて別の業務を経験する機会も設ける。

効率と育成を二者択一にするのではなく、それぞれを別の目的として設計しました。

こうして業務の流れを組み直した結果、工程間で発生していた待ち時間や作業切り替えのロスは大幅に減少しました。

そして、着任当初は月25万円ほどだった作業報酬は、運用改善後には月100万円規模まで増加しました。


効率化すると、人は「作業のコマ」になるのか

こうした話をすると、「そこまで効率化してしまうと、利用者を単なる作業要員として扱うことにならないか」という疑問を持たれるかもしれません。

この問題は、就労支援の現場では特に慎重に考える必要があります。

効率だけを追い求めればよいのであれば、福祉サービスである意味がありません。

一方で、「成長のためには何でも均等に経験させなければならない」と考えることにも、私は違和感がありました。

苦手な仕事を繰り返し経験することが、必ずしも成長につながるとは限らないからです。

人は、自分の強みを使って成果を出せたときに、「自分はこの場所で役に立てる」という感覚を得ることがあります。

心理学では、自分には物事を達成できるという感覚を「自己効力感」と呼びます。

実際に現場では、得意な工程を担当することで作業が安定し、自分の仕事が次の工程につながっていることを実感できるメンバーが増えていきました。

自分の仕事が誰かの役に立ち、それがチーム全体の成果につながる。

これは、仕事をする上でかなり重要な経験だと私は考えています。

私がこの現場を担当した約4年間で、7名の利用者が一般企業への就労へ移行しました。

もちろん、この結果だけをもって「分業したから一般就労できた」と結論づけることはできません。

本人の努力、支援員の関わり、企業とのマッチング、生活面の安定など、就労にはさまざまな要因が関係します。

それでも、「苦手を平均まで引き上げることだけが支援ではなく、得意なことを通じて安定して価値を生み出す経験もまた、働く力を育てる」ということを、この現場から私は学びました。

業務全体の成果を高めることと、一人ひとりが自信を持って働ける環境をつくること。

この二つは、必ずしも対立するものではありません。

むしろ仕組みを適切に設計できれば、両方を同時に追求できる場合があります。


なぜ現場の中にいると「当たり前」を疑えないのか

ここまでの話で、もうひとつ重要なポイントがあります。

当時の現場で、「全員に同じ仕事を割り振る」という考え方を採用していた人たちが、間違っていたわけではありません。

むしろ逆です。

利用者にできるだけ公平に機会を提供したいという、善意から生まれた仕組みでした。

だからこそ、変えるのが難しいのです。

組織には、長年の経験から作られた「これはこうするものだ」「これが正しい」という暗黙の前提があります。

システム思考では、このような無意識の思い込みや前提を「メンタルモデル」と呼ぶことがあります。

メンタルモデルそのものが悪いわけではありません。

人間は毎回すべてをゼロから考えていては仕事にならないため、過去の経験をもとに判断する必要があります。

問題になるのは、環境が変化しているにもかかわらず、以前の前提だけが残り続けている場合です。

そして厄介なのは、問題を解決しようとしている自分自身も、その組織の仕組みの一部だということです。

毎日その環境の中で働いていると、自分たちにとっての「普通」を疑うことは簡単ではありません。

その結果、問題が起きるたびに「もっと頑張ろう」「研修を増やそう」「新しいツールを入れよう」と対策を重ねるものの、問題を生んでいる構造そのものには手がつかない。

これが、「改善活動を続けているのに、なぜか現場が変わらない」という状態を生みます。


業務改善で最初に選ぶべきなのは、フレームワークではない

TOCは優れた理論です。

システム思考も、組織を見る上で非常に有効です。

しかし、この記事でお伝えしたいのは、「システム思考とTOCを使いましょう」ということではありません。

現場によって問題は異なります。

5Sが効く現場もあれば、業務標準化が必要な会社もあります。役割分担を見直すべき組織もあれば、そもそも顧客への提供価値から考え直した方がいい事業もあります。

重要なのは、最初から使う道具を決めないことです。

私自身、業務改善では次の順番を大切にしています。

  1. まず現場を観察し、何がどのようにつながっているのかを把握する。
    目の前の問題だけでなく、その問題を生んでいる前後の業務、ルール、役割、評価制度、暗黙の前提まで含めて考えます。
  2. その上で、最も大きな影響を与えている場所に合った方法を選ぶ。
    TOCかもしれませんし、業務標準化かもしれません。場合によっては、制度や会議のやり方を変えるだけで解決することもあります。

業務改善では、「何をするか」より先に「どこを見るか」が重要です。

そして、多くの場合、大きな成果につながる改善は、目の前で一番目立っている問題とは少し違う場所にあります。


現場で繰り返している「モヤモヤ」を、一度整理してみませんか

日々の仕事を回しながら、自分たちの業務や組織を客観的に見ることは簡単ではありません。

特に、長く続いているルールや習慣ほど、「なぜそうしているのか」を改めて考える機会は少なくなります。

業務改善に取り組んでいるのに成果が頭打ちになっている。

同じトラブルが何度も繰り返されている。

人を増やしても、ツールを導入しても、なぜか仕事が楽にならない。

こうした状態が続いているとき、必要なのは新しい改善手法ではなく、一度立ち止まって「そもそも、どこで詰まっているのか」を整理することかもしれません。

私は、業務改善・組織開発・人材育成などのご相談を通じて、現場で起きている問題を一緒に整理し、「本当に手を入れるべき場所」を見つける支援を行っています。

初回相談は無料です。

まだ課題が明確になっていなくても問題ありません。

「なんとなく現場がうまく回っていない」「何から手をつければいいか分からない」という段階から、現在の状況を整理する壁打ち相手としてご相談いただけます。

問題を解く前に、まず問題を疑う。

その整理から、一緒に始めます。